2022新作 フランク ミュラー「カーベックス CX」

　2022年の新作としてフランク ミュラーより、ブランドを象徴するケースフォルムのデザインを見直した新しいトノウ カーベックスとして「カーベックス CX」が誕生しました。サファイアクリスタル製の風防をストラップに接するまで拡張し、文字盤の視認性を大幅に向上させたほか、ベゼルをケースから独立させることで美しいツートン仕上げを実現しています。極めて高度な技術を駆使し、新しく現代的なスタイルのトノウ カーベックスは、フランク ミュラーが生み出した独創的な三次元曲線フォルムの魅力を最大限に引き出しています。また造形上の美観は、そのまま人間工学的な装着感の向上にもつながり新たなストラップの着け心地には感動することでしょう。

　カーベックス CXのダイアルにあるギョウシェ彫りは、このモデルのために新開発されています。クルー・ド・パリにねじりを加えたような模様が、文字盤上に躍動感を与えています。また、面の数が非常に多い装飾であることから、光をふんだんに反射し星が瞬くかのような煌めきを放ちます。文字盤の美しさを際立たせるサファイアクリスタルの風防の下には薄型のインナーベゼルが取り付けられ、クラシックかつエレガントに仕上げられたコレクションです。本コレクションは、「シンプル、エレガント、カジュアル」という要素に自然と惹かれる現代人に向けて作られています。

トノウ カーベックスとは
　フランク ミュラーの代名詞とも言える独創的なフォルムのケースが「トノウ カーベックス」です。その誕生は1990年代に遡ります。

　古典時計の修復で鳴らした凄腕の時計師として、当時のフランク ミュラーは受注によってのみ1点ものの時計を製作していました。ある日、顧客であった一人の裕福な女性が「丸型ではない、あなたの完全なオリジナルデザインの時計が欲しい」とフランク ミュラーに問います。この依頼が、あらゆる古典に通じてどのような時計でも生み出せる天才をさらなる次のステージに上げる、創造への誘いとなったのです。その結果生み出されたのが、かつて誰も見たことのないかたち＝世界で最初の「トノウ カーベックス」です。

　単なるトノウ型ケースであれば、腕時計の歴史に存在する古典的なフォルムです。フランス語で樽型を意味する形は1920年代から30年代にかけてのアールデコ期で流行し、その後は時代の記憶としてアーカイブされていました。そのオールドファッションなシェイプに、フランク ミュラーは恐るべき独創を加え、全く別のものにしてしまったのです。

　それまでのトノウケースは、丸型の上下を水平に切り捨て左右の弧を詰めていった平面図形に厚みを加えたものです。一方で似て非なるフランク ミュラーの「トノウ カーベ ックス」は、樽型に縦軸・横軸双方からカーブをかけ、時計の中心を頂点とした丘状の構造を採ります。さらにガラスも湾曲し、ケースバックも手首に沿うような曲面を描きます。アールデコの平面構成に敬意を払いながら、2次元ベースの原形を3次元の存在に一変させたのです。

　あまりに独創的な造形は言ってみれば、球体から抉りとったかたちです。実際「トノウ カーベックス」は“地球から切り出した”と表現されることがあります。赤道を3時から9時方向の水平に見立て、上下対称に等距離の経線を引き、左右対称の緯線で繋げば、確かにその形に近くなるでしょう。そして球面上では平面の幾何学が通用しません。三角形の内角の和すら180度よりも大きくなる“曲面の幾何学”の領域に、天才時計師は初めて踏み込んだのです。あらゆる方向に湾曲（カーブ）する凸型（コンベックス）は、こうして歴史上どこにもない腕時計の“はじめての形＝トノウ カーベックス”に結実しました。

　1992年のブランド発足以来「トノウ カーベックス」はフランク ミュラーの才能と魅力を語る格好の対象となり、喝采は今日にまで続いています。独特のビザン数字は曲面上でより拡大し、遠近法の視覚効果を高めます。ダイアルはフォルムに沿って角が落ち、針はそれに合わせて先端を下げています。曲面ガラスは歪みなく、ケースと段差なく接合。現代最高の技術と手作業のどちらが欠けても存在し得ない現在の「トノウ カーベックス」は、極めて高いレベルの領域で生み出される、フランク ミュラー独自の創造物なのです。