さらば、サマータイム。さらば、ワールドタイム?
数年前の海外出張の時の話だが、帰国日がサマータイムへの切り替え日にぶつかった。サマータイムは、3月の最終日曜日の夜中に1時間、針を進める。1時→2時にすることで調整するのだ。この作業は、もう何十年も行われているはずなのに、それでも当日の電車のダイヤは大混乱。帰国便に乗るために予約したドイツ版新幹線ICEは、いつまで待ってもこない。表示の遅延時間は30分が1時間になり、ついには電車自体の表示が消えてしまった。仕方なく駅に着いた目的地違いのICEに乗り込み、重い荷物を引っ張りながら、複雑な乗り換えを経て何とか空港にたどり着いたのだった。
そんな苦い思い出があるため、サマータイムはあまり好きではない。しかしそのメリットは、ちょっと理解できる。なにせヨーロッパの夏は、とにかく朝が早い。スイスの7月1日の日の出時間は5時37分。つまりサマータイムが無ければ、4時半には日が出ているということだ。であれば、時間を早めることで明るい時間帯を有効活用し、電気の使用量を減らしたり、明るい夜の時間帯をレジャーに充てたりと、経済の活性化を期待するのも当然だろう。しかし実際には、時間変更による交通システムのトラブルや生活リズムの変化による心身への悪影響の方が問題視されるようになり、遂に2019年の欧州議会にて「2021年をもってサマータイム制度を廃止する」という法案が可決された。
つまり今年は、少なくともEUにおいては“サマータイム最後の年”ということになる。しかしニュースなどを調べると各国の足並みは揃っていないようで、とりあえず10月31日(日)に通常時間帯へと戻してから、再び議論を重ねることになりそうだ。
しかしながらこの状況は、時計ブランドをヤキモキしていることだろう。なぜなら、その決定が「ワールドタイム」の表示に大きく関係してくるからだ。
ワールドタイムは世界の主要24タイムゾーンの代表都市を明記したリングと24時間リングを組み合わせて、世界中の時刻を同時に表示する実用機構だ。しかしここにサマータイムが絡んでくると、とたんに厄介になる。
なぜならサマータイムは、世界統一のルールではない。日本や韓国が導入していないのはもちろんのこと、アメリカの場合は週によって異なる。ハワイ州はサマータイムを導入していないが、まだ独立した場所にあるからいい。問題はアリゾナ州で、州の中に導入地区と非導入地区が混在しているという。こうなるとワールドタイムでは対応不可能だ。
このような曖昧なサマータイムのルールに翻弄されつつも、何とか時計ブランドはワールドタイムにサマータイムを対応させる表示方法を考案してきた。都市表示ディスクのなかにサマータイム用のガイドラインをつけ、“該当期間中はここの数字を読むように”と表示を加えるタイプもあれば。サマータイムの有無をインジケーターなど表示するモデルもある。さて、時計ブランドたちは、EUのサマータイムの変更にどう対応していくのだろうか? 時計技師たちは、モヤモヤしたまま来年を待つことになりそうだ。
しかしだからと言って、ワールドタイム自体の価値がなくなるとは思わない。ワールドタイムは、世界中の時差を表示する便利な機構だが、その一方で、世界を手中に収めるというロマンティックな魅力もある。自宅で時計を眺めながら、早朝のワイキキの心地よい風を思い出し、夜のパリのエッフェル塔の光のショーを思い出す。そんな世界を身近に感じることができる時計でもあるのだ。
そもそも実用性を重視したいのであれば、スマートフォンと連動するハイテクウォッチの方が断然便利だ。国ごとにサマータイムの導入、非導入がころころと変わったとしても、アプリのデータがその都度更新されるので、面倒な修正は不要だ。しかしこういった“便利な道具”がしっかり進化しているからこそアナログなワールドタイムは、機能性というルールから逃れて自由に進化できる可能性が出てきた。
今日も太陽は、地球の上に朝を届けながら巡っている。これからのワールドタイム機構は、”ロマンティックな時間旅行“を楽しむものになっていくのかもしれない。
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※2021年11月時点での情報です。掲載当時の情報のため、変更されている可能性がございます。ご了承ください。