これからのコラボレーションウォッチについて考える

 コラボレーション(Collaboration)とは、協業のこと。ジャンルの異なる企業や人が共同作業を行うことで、これまでになかった新しいものを生み出すのが目的だ。しかしながら。ファッション、音楽、食など、昨今はあまりにもコラボレーション商品が多すぎはしないだろうか。確かにユニークなコラボレーションは話題になるし、相乗効果によって本来の商品価値を高めることもあるだろう。

 しかし“打ち上げ花火的コラボレーション”ばかりでは、食指は動かない。本来の目的は、異なる価値観がぶつかり合うことで、創造の限界を超えることにある。ファッション業界ではグッチとバレンシアガのコラボレーションが大きな衝撃を与えた。スニーカーであれば、アディダスとカニエ・ウェスト(Ye)によるYEEZYは、大成功したコラボレーションといえるだろう。

 では時計はどうだろうか? 歴史と伝統を重視する時計業界では、かなり早い段階から進化の袋小路に陥っていた。なにせ、デザインもサイズも機能も、“腕の上で時刻を表示する機械”というルールから逃れることはできない。となれば外的要因でもなければ、新しい創造的な時計を生み出すことは難しいだろう。

 時計業界が頼ったのは自動車業界だった。自動車の大量生産が始まった約100年前から、自動車用の計器は時計メーカーが製造することが多く、両社は蜜月関係を結んできた。どちらもエンジニアリングを尊ぶ企業哲学があり、どちらかといえば男性目線の商品開発を行うという点も似通っていた。

 時計×自動車のコラボレーションウォッチの先駆けとされるのが、1976年に登場したコルム×ロールス・ロイスのコラボレーションで、特徴的なフロントグリルの形を模したケース&ダイヤルデザインは、時計界の常識外にある刺激的なクリエイションだった。自動車メーカーと良好な関係を築くことは時計メーカーにとっては重要なミッションとなったが、特に金星となるのが「フェラーリ」を射止めることだ。自動車界の最高峰ブランドであるだけでなく、その神話性やF1での伝統、美しいデザインなど魅力は深く、しかも世界的に圧倒的な知名度を持ちながら、そのイメージを消費されることなく高いレベルに保ち続けている。しかしフェラーリというブランドを乗りこなすのは難しいのか、ここ20年でもジラール・ペルゴ→パネライ→ウブロ→リシャール・ミルと、次々と相手を変えている状況だ。

 逆に蜜月関係を築いたという点では、ブライトリング×ベントレーは理想的なコラボレーションだったと思える。ベントレーはリブランディングの柱として、2002年に「コンチネンタルGT」を発表。これまでのイメージを覆す若々しいスタイリングで、一気にユーザーの心をつかんだが、その際にダッシュボードクロックをブライトリングに依頼した。さらにブライトリングが「ブライトリング フォー ベントレー」という時計ブランドを立ち上げてレーシングスピリットあふれる時計を製作したことで、時計と車をセットで手に入れた人も少なくなかった(実際に知人にもいた)。さらにはブライトリングも、航空時計というイメージから脱却し、より幅広い魅力のあるブランドへと進化する筋道を作ることに成功している。そして2021年を持って20年に及んだパートナーシップは終了。コラボレーションモデルの最後として「プレミエB21クロノグラフトゥールビヨン42ベントレーリミテッドエディション」を世界限定25本で発売し、見事に有終の美を飾ったのだった。

 それでは、今注目すべきコラボレーションウォッチは何か? 私が推したいのは「タグ・ホイヤー×ポルシェ」である。名車「カレラ911」と名時計「カレラ」が同時期に誕生したという歴史的背景もさることながら、新しいエンジニアリングへの探求心という共通点からも、何かが生まれそうな空気感がある。中でもタグ・ホイヤーが力を入れているコネクテッドウォッチに注目だ。

「タグ・ホイヤー コネクテッドキャリバーE4 ポルシェ スペシャルエディション」は、ポルシェオーナー専用のアプリが入っており、対応車種は、パナメーラ(G2以降)、911(991.2以降)、カイエン(E2.2以降)、タイカン(J1以降)、マカン(マカン I)、718(982以降)。これらの車と繋がることで、バッテリー残量や走行可能距離、車の空調管理、そして車両の総走行距離などが分かるようになっている。現在はまだ機能は少ないが、コネクトウォッチのアプリと車両のアプリが互いに進化すれば、さらに便利な相関関係を結ぶことができるだろう。

 自動車と時計のコラボレーションは、まずはデザインから始まり、素材やメカニズムなどで常識を超えてきた。しかしこれからは自動車の進化は、デジタル化がメインとなってくる。ということはコネクテッドウォッチを通じたコラボレーションは、実用性や機能面においても様々な効果を発揮してくるに違いない。自動車とユーザーが、時計を通じて繋がる。そんな時代がやってくるのかもしれない。

文:篠田哲生 / Text:Tetsuo Shinoda

※2022年9月時点での情報です。掲載当時の情報のため、変更されている可能性がございます。ご了承ください。

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