“餅は餅屋”は正解なのか?
時計業界は、歴史と継続性を重んじる。数百年という歴史を継承していたり家族経営であったりと、“歴史を継承している”ということ自体が大きな価値になっているし、ブランドに対する信頼に繋がっているのは事実だろう。“餅は餅屋”ということだ。しかし腕時計が実用品の枠を超え、アクセサリーやステイタスを語るものとなった現代では、時計をつけるということ自体が特別なことであり、一種の自己主張となるので、何を選び、どう着けるかが重要になってくる。つまり時計としての実力や能力だけでなく、+αの個性が重視されるようになってきたといえるだろう。
となると時計一筋ウン百年でやってきた真面目な時計ブランドたちは、少々分が悪くなる。逆に他業種で様々なノウハウを積み重ねてきた“餅屋じゃないブランド”の+αの個性が、むしろ存在感を増しつつある。
その傾向を如実に示すのが、時計界のアカデミー賞といわれる「ジュネーブ時計グランプリ」の受賞モデルたち。2021年は大賞であるブルガリやダイバーズウォッチ部門のルイ・ヴィトンなど、実に7つの部門で時計専業ではないブランドが賞を取っている。もはや時計業界としても、こういった他業種から参入したブランドたちの実力を認めざるを得ない状況になっているのだ。
この“餅屋じゃないブランド”には、主に3つのカテゴリーがある。
最大勢力となるのは、ジュエラーから始まり、時計も作るようになったブランドたち。その筆頭は「カルティエ」で、近年は「ブルガリ」の躍進が目覚ましい。「ヴァン・クリーフ&アーペル」は、ポエティックコンプリケーションと命名した、詩的でロマンティックな機構を作っている。どのブランドも身を飾るジュエリーの延長として時計を作り始めたため、華やかなデザインや色彩、ジェムセッティングを楽しめる。
最近勢力を拡大しているのが、ラグジュアリーメゾンから時計に参入するブランドで、「ルイ・ヴィトン」や「シャネル」、「エルメス」がその代表。ラグジュアリーメゾンとして培ってきた世界観やコンセプトを時計に落とし込んでおり、ファッションやアクセサリー、バッグとのコーディネートも楽しめる。さらに超一流の審美眼を満足させるために、ムーブメント会社と関係性を深め、メカニズムでも独自性を高めているのも特徴。ルイ・ヴィトンなら「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」、シャネルは「ケニッシ」、エルメスは「ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ」といったムーブメント会社と組んで、創造性豊かな時計を作っている。
さらに逆のパターンとして、時計ブランドとして誕生したが、その技術を生かしてジュエラーになったブランドもある。「ピアジェ」は1874年に時計工房としてスタート。薄型ムーブメントを生かした美しい時計作りの過程の中で、ジュネーブの宝飾工房を傘下に収め、のちにジュエラーとしても名声を獲得していく。「ショパール」の場合は1860年にスタートした時計ブランドの経営権を、1963年にドイツのジュエラーであったショイフレ家が獲得したことで、時計技術と宝飾技術が融合することになった。時計も宝飾も卓越した職人技術から生まれるものである。華やかなジュエリーウォッチに目が奪われるが、時計愛好家も唸らせる本格時計を揃えた骨太な魅力を持ったブランドでもある。
時計一筋の専業ブランドの積み重ねてきた歴史の重さと深さは、何にも代えがたい魅力がある。しかし他業種で培った創造性が入った非専業ブランドの時計もますますレベルが上がっている。専業と非専業。その両方があるからこそ、時計はどこまでも魅力的に進化していく。餅は餅屋、でも他業種がついた餅だって十分美味しいのだ。
BULGARI
OCTO FINISSIMO
PIAGET
LIMELIGHT GALA PRECIOUS RAINBOW
LOUIS VUITTON
TAMBOUR STREET DIVER SKYLINE BLUE
※2022年4月時点での情報です。掲載当時の情報のため、変更されている可能性がございます。ご了承ください。